伊藤アキラ亡くなる

2021年5月15日、作詞家の伊藤アキラが急性腎不全で亡くなられた。80歳。

売れっ子作詞家だったが、CMやアニメの主題歌などが多かったため、あまり一般にはその名が知られていない。が、僕は小学生の頃からこの名には強烈な印象があった。

ソルティ・シュガーの「走れコウタロー」という歌が大ヒットしたのは小学校の時だったが、小学5年生の時、懇意にしていた電気屋さん(ナショナル専門店(PanasonicではなくNationalである!))に「いる?」と言われてもらったのが「スヤスヤコウタロー」のソノシートであった。

ソノシートというのはペラペラのプラスチックでできたいわば安いレコードで、無料で配ったりするような音源を入れるのに当時よく使われたものだ。

「スヤスヤコウタロー」は「走れコウタロー」の替え歌だが、歌っているのはソルティ・シュガーその人であり、演奏もしっかりしていて(恐らく「走れコウタロー」と同じ音源ではないだろうか)、こんな高品質の曲をタダでもらってしまってよいのかと驚いたくらいだ。

歌詞の内容は、レースが終わって疲れ切ったコウタローらは静かに休んでいる、というもので、途中のセリフ部分を引用してみる(まだ覚えている。小学生の時に覚えたことは一生忘れない)。

えー、このたび、遅刻という問題につきまして、慎重に検討を重ねてまいりました結果、眠い時には寝て、みんな揃って遅刻しよう、という結論に達したのであります。

各場ゲートインから一斉にスタート、と思ったら全然姿を見せません。厩舎を覗けばあっと驚く大三元。「実はゆうべ飲みすぎまして」「ヒヒーン、覗くなんてエッチ、ゲヒ~ン」「頭イテーし、腹もイテーし」「田舎の母が出てきまして」各馬一斉に遅刻の理由を申し立てております。枕もとには遅刻できない無遅刻時計、ナショナルの「スヤスヤ」が置かれておりますが、にも関わらずこのありさま。各馬、再び眠り始めました。お聞きください、この高いびき。「ゴーッ」う~ん、人間らちっく。

これはナショナルの「スヤスヤ」という目覚まし時計の宣伝の歌なんですね。今風にいうとスヌーズ機能がついていたということだろう。年代は、ソルティーシュガーが歌っていたんだから、1970年か71年。スヌーズはかなり先進的な機能だったはず。松下電工も派手に宣伝したくてこんな企画も立てたということだろう。当時、家にレコードプレイヤーはあったけれど、童謡以外のレコードを持っていなかった自分は、この曲を何十回も何百回も聞いたものである。

この曲の作詞をしたのが伊藤アキラさんだったというわけだ。

後日、松本ちえこの「恋人試験」という曲がスマッシュヒットした時、その作詞が伊藤アキラだと知って、あの伊藤アキラさんか! と感慨深かった。「65点の人が好き」の部分が流行し、当時「流行語大賞」があったら絶対にノミネートされていたと思うが、テストであまりいい点を取れなかった時にこのフレーズを歌って自らを慰めるというか、開き直るのがお約束であった。しかし、歌詞の意味は違う。「知っているのにわざと間違える65点の人が好き」なのである。精一杯やって65点しか取れない人を好きだとは言っていないのだ。なかなか奥の深い詩なのである。

さらに時代は下って、1988年ごろだったと思うが、NIFTY-Serveというパソコン通信のあるフォーラムで、伊藤アキラさんをお見掛けしたことがある。パソコン通信では、普通は本名を名乗らず、ハンドル(ニックネーム)を使うのがお約束だが、氏は「伊藤アキラ」を名乗っておられた。

作詞家と気づいた人が「恋人試験は名曲でしたねー」などと話しかけている中、自分が、「あ、あのっ! 自分は『スヤスヤコウタロー』のソノシートを持っていますっっ!!」と言ったところ、「それは貴重です。ぜひ大事にお持ちください」とお返事をいただいたことを今でも覚えている。

伊藤アキラさん、いろいろ楽しませていただきありがとうございました。