中西太さん、アンタは偉い!

中西太著、「西鉄ライオンズ 最強の哲学」(ベースボール・マガジン社新書)を購入。

本旨とは別に、とても感激した一節がある。それは1981年の事件……

エモやんの「ベンチがアホやから」事件、といっても若い人にはピンとこないかも知れないが、江本孟紀阪神タイガースの現役投手だった時、ある試合で打たれて交代させられたあと、ベンチ裏で新聞記者に向かって「ベンチがアホやから野球がでけへん」と話したとされ、それがセンセーショナルな事件として報道されたことがあった。当然、こうした首脳陣批判を球団が無視できるわけもなく、その年限りで任意引退に追い込まれた――という事件があったのだ。

江本自身は、事件直後、そんなことは言っていないと言い張っていたが、その主張は通らず、その後長きにわたって「ベンチがアホやから」の江本さん、という肩書きがついて回ることになり、一時期はかなりの批判にさらされていた。

さて、上記書に本件が触れられていたのだが、中西は、これはマスコミによる捏造に近い、と明記している。

江本が、腹立ちまぎれにもらした捨て台詞の断片が、新聞記者に拾われる。それを、おもしろおかしくつなぎあわせたのが「ベンチがアホやから野球がでけへん」という有名なひと言だ。

これは、当時の江本の言い分をそのまま受け入れたものであり、僕の知る限りではマスコミが一切記事にしなかった「真相」である。中西太は当時の監督である。そして、中西監督の采配には疑問が呈されていたのも事実だ。だから、「江本、よくぞ言った!」というような、江本にとっては決して嬉しくないだろう援護射撃も、一方ではあったのだ。

この事件は、江本も困った事態に追い込まれたわけだが、中西も腸が煮えくり返る思いだったのではないだろうか。それが、少なくとも当時、誰一人味方のいなかった江本の言うことを信じ、彼に罪はないと言っているのである。26年経ったからこそ言えるのかも知れないが、中西はなんと立派な人なんだろう、と思った。

もっとも、結果的に名前が売れ、本が売れ、国会議員にまでなるのだから、あの事件は江本にとってはよかった……と書いているあたり、強烈な皮肉と取れないこともない。