金本知憲選手の偉業

4月9日、タイガースの金本知憲選手が904試合連続フルイニング出場という快挙を達成した。メジャーリーグの記録はカル・リプケン(元オリオールズ)の903試合であるため、数字の上ではこれを上回ったことになる(ただし、条件があまりにも違うから、これをもって世界記録とする見方には賛成できない)。

衣笠祥雄選手がルー・ゲーリック(元ヤンキース)の持つ2,130試合連続出場を上回る数字を達成した時は、既に全盛期の力はなく、打率も二割をやっと超える程度。「打撃の調子を落としていても、守備が一流だからレギュラー」と苦しい説明がなされてはいたが、先発出場できなかった試合、勝敗に関係のない場面で代打に登場するのを見るにつけ、記録のために出場を続けていたようで痛々しく感じたものだ。

それに対して金本は、ここ三年間で二度のチームの優勝に牽引車として貢献。昨年はMVPを獲る活躍ぶりで、超一流の成績を続ける中でのこの記録は、賞賛に値するだろう。

しかし、普段こうした記録は全く注目されないのに、メジャーの記録を数字で上回るとなった時だけ今回のように大騒ぎされることには、疑問を感じる。

昨年、全試合フルイニング出場を果たした選手は、12球団で二人しかいなかった(金本と、もう一人はベイスターズの石井だったかな?)。僕が以前調べた時は、全イニングどころか、全試合出場の選手すら、毎年数人程度であり、年度によってはゼロということもあった。

こんなに少ないのは、もちろんそれだけ難しいということもあるのだろうが、多くの選手や監督にとって、必ずしも価値のあることだと考えられていないからではないか、と思うのだ。

シーズン終盤ともなると、個人タイトル争いをしている選手は、打率が下がるのを避けるために試合を欠場するのが慣例となっており、特に非難の声もあがらない。タイトルがかかっていなくても、3割を切らないように休むこともある。一試合でも多く出場すること、1イニングでも多く出場することがもっと評価され、名誉なことだと感じる風潮があれば、こうしたことがまかり通ることもなくなると思うが、現実にはそうではない。

成績は別にして、順位も決まった日程消化試合では、ベテランを休憩させることと来期の戦力を確認するために、若手主体に切り替えるのが一般的だ。シーズン途中でも、序盤に大差がついて勝敗が見えてしまった試合では、レギュラーを引っ込めて新人を使ってみたりすることがある。これは、作戦として必ずしも間違っているとはいえないだろう。

シーズン全試合出場を果たしても、連盟表彰されるわけでもなく、収入が上がるわけでもない。マスコミも騒ぎ立てるわけでもない。それなのに、数字の上でメジャーを追い抜いた時だけ騒ぐということに納得できないものを感じるのだ。

スポーツニュースを見ていたら、解説者の大野豊NHK)、川崎憲次郎テレビ東京)がそれぞれ試合後に金本にインタビューをしていた。が、それらは表面的な賛辞に終始し、全く物足りないものだった。「怪我で長期戦列を離れるのは問題だと思うけど、金本クンももうそれなりのトシなんだし、適度に休みを入れたほうが、調子も維持できるし、選手寿命も延びるんじゃないの?」ぐらいのことは訊いてみてほしかった。まあ大野も川崎も元投手。そもそも野手が毎日試合に出場することの大変さはわからないのだろう。