出会いの秘密

主人公の女の子が、食パンをくわえて『ちこく、ちこく〜!』と言いながら走り、角で転校生と衝突する、というのが少女マンガの典型的な出会いのシーンだとよく言われるが、本当にそういう漫画があるのか、と調べたが見つからなかった……という検証報告。

「典型的な出会いのシーンだとよく言われる」というが、誰が言っているかというと、今から20年近く前に、相原コージ竹熊健太郎が『サルでも描けるまんが教室』で喝破したのである。『サルでも描けるまんが教室』は、「実際にはないけれど、言われてみれば確かにありがち」とみんなが思えるようなエッセンスを抽出し、提示し続けたところが偉大であり、先見の明があったのである。

女の子が食パンを咥えて走るなんて、いかにもありそうじゃないか。そう『サルでも描けるまんが教室』が述べたら、以来20年近く、それが少女マンガの出会いシーンだと信じられ続けたのである。今回酔狂な人が調べてみたら、そういうシーンは実在しなかったことがわかって、ますます『サルでも描けるまんが教室』の偉大さが証明されたのである、と言いたいが、この調査はかなりいい加減なもののようで、本当は何も結論は出せない。

調査をするなら(サルまん以前の)昭和期の作品を調べなければ意味がない。調査子の田幸和歌子はそのあたりを全く考慮していない。いくつか名前の出ているものについては平成時代の作品のようだから、サルまん以降である。サルまんの提案をそのまま真似るのはいくらなんでも避けた、ということかも知れない。それならそれで、別な意味でサルまんの偉大さを示すものでもあるのだが。