初の船旅を体験/八丈島旅行(7/7)

八丈島へ行くことを思いついたのは、とにかく船旅を経験してみたかったからだ。

もうずいぶん昔、学生時代だったと思うが、かんべむさしのエッセイで、氏がハワイだかどこかだかへ行った時に片道一週間かけて船旅をしたがそれがとてもよかった、という話を読んだことがある。こんな素晴らしい体験は今までなかったと。他にやることもなく集中できるから仕事がはかどるだろうと原稿用紙の束を持ち込んだものの、結局一枚も書かなかった、毎日ただひたすら海を見続けているだけで飽きなかったという。運賃は確かに少々かかるとはいえ、その間の宿泊費、食費込みだと思えば実はさほどでもない。会社員などでそんなに長期の休みが取れないという人は、帰りは飛行機でもいいから、一回船旅を経験することをお薦めする、ただし戻ってきてから仕事が手に着かなくなっても責任は持ちません……というような内容だった。

戻ってから仕事が手に着かなくなるほど脳がとろけるような経験を一度してみたいものだと思いつつも、機会がないまま今まできてしまった。船らしきものに乗ったことといえば、国内では佐渡ヶ島へ行った時のフェリー(2時間半)、国外では、ケアンズに行った時にグリーン島へ(約1時間)、あとセブ島でダイビングをした時に沖合までボートに毛の生えたような小型舟で移動(1時間弱)……。このうち酔わなかったのはグリーン島への往復だけで、佐渡ヶ島へ行った時は最初ははしゃいでいたもののどんどん気分が悪くなってきて、最後は口もきけなかった。ダイビングの時は現地に着いた時に何度も吐いてしまい、添乗員の人に「魚の餌になってちょうどいい」とからかわれた(事実、吐いた瞬間に魚が寄ってきて、きらびやかな様相を呈したのである)。

こんな短時間でも酔うのだから、長時間の船旅なんてやめた方がいいのでは、という気持ちと、あれは船が小さかったり運転が乱暴だったりしたせいで、まともな客船ならそんなことはないだろうという気持ちとせめぎ合い、先延ばしにしてきた事情もある。

何はともあれ、一度は体験してみようと、今回は船で行くことを前提に行き先を検討した。船で大阪に行っても仕方ないので、行き先は離島だろう。小笠原も考えたが、思ったより運賃が高かったため、予算の問題から八丈島に落ち着いた。もっとも、小笠原だと飛行機便がないため、往復とも船にしないといけないが、八丈島なら飛行機便もあるから、万が一船がどうしてもダメだったら、帰りは船をキャンセルして飛行機で帰ってくればいい、という保険をかける気持ちもちょっとだけあった。チキンなワタシである。ちなみに移動時間は、ともに竹芝埠頭から、八丈島までは11時間、小笠原は父島まで25時間半だ。

八丈島までの船便は一日一往復。夜竹芝を出て朝八丈島に到着、朝八丈島を出て夜竹芝に到着。これを繰り返している。今回は「ネイチャー企画」(八丈島にある現地の旅行会社)のパックツアーにネットから申し込み。一人で一部屋確保できるホテルが少なくて(多くのホテルが一部屋2人以上。割増しを払えば可能なのかも知れないが……)港から少し離れたホテルになったが(八丈シーパークリゾート)、2泊4日、ホテルは朝食付きで37,000円。これは結構お得な価格ではないか。

ちなみに2日(金)の夜に申し込みをしたところ、3日に自宅に電話がかかってきて、入金確認をしないとチケットが送れないが、なにぶん日が迫っているため、銀行振り込みだと間に合わないのですが、カードでお願いできませんか……とのこと(ネットで申し込んだだけでは決定ではない。船便やホテルの空き状況を調べて、先方から確認メールが来る。それに対して支払いを済ませた時点で成約になる)。こちらは元々カードで払うつもりだったからそう伝えると、10分でメールを送りますから今日中に手続きをしてください、そうしたら日曜日に速達で送ります、という。すぐにメールがきたので、こちらも即手続きを行なったところ、書類は5日(月)に届いた。いくら速達とはいえ八丈島から日曜に送って月曜に着くとは驚き。もしかしたら土曜日に投函してくれたのか?

竹芝埠頭には出発(22時20分)の1時間前までにくるように、とあったため、21時過ぎには現地に着いたのだが、搭乗が始まったのは出航の10分前。約1時間、やることもなく、ロビーで最後の(?)メールチェックをし、あとは本を読んで過ごす。

さて、乗ることになったさるびあ丸の感想を。

  • 第一印象は、大きい、だった。正真正銘の客船で、こんな大きな船に乗るのは初めて。しかし乗り込んでから中を一通り歩きまわってみると、大勢の乗客を長時間乗せる割には狭いなあ、というのが正直なところだ。驚いたのは、デッキも含めて、食堂と喫煙所以外に座る場所がないこと。デッキに椅子くらい並べてもいいんじゃないか。食堂はどうやら飲食しない人が座っていてもいいらしいが、席数は乗客数に比べると非常に少ない。竹芝から八丈島への移動は、基本的に夕食も朝食も取らないが、八丈島から竹芝への移動は、少なくとも昼食は全員取るだろう。大丈夫なのか。
  • ジュースとビールの自動販売機があった。ジュースは定価。缶ジュースは120円だしペットボトルのものは130〜150円。ビールは350ccが220円で500ccが310円。もっと高いかと思ったが意外に良心的だ。
  • 出発後は、レインボーブリッジをはじめ、湾岸の夜景を見ながらの移動になる。これは結構素敵な光景だった。この時点で携帯(ソフトバンク)が通じたのも意外だった。
  • 既に夕食は済ませていたが、小腹が空いていたのと、せっかくだから試してみようと、レストランで餃子を注文。こんなところで料理するんだなあと思ったら、冷蔵庫から出したものをお皿に並べ、電子レンジに入れていた。なるほど。でも味は悪くなかった。
  • 寝る場所に関しては悪い方向に意外だった。グレードがいろいろ分かれていて、もちろん値段も違うのだと思うが、一番上のグレードは個室。その下が4人一部屋で相部屋になる可能性あり。その下が2段ベッドが並んだ部屋で、必ず相部屋。僕はその下の「2等和室」だった。
  • 「2等和室」は、広ーい広ーい部屋に、一人一畳分程度のスペースが区切られていて、要はそこに雑魚寝するというもの。そのスペースは床に線が引かれているだけで、何ひとつ遮るものはない。そこに老若男女が無差別に放り込まれるわけだから、見知らぬ女性と男性が隣り合って寝る、という事態も当然起こるのだ。そもそも部屋自体が広いから、着替えもできない。これには驚いた。せめてカーテンで区切るとか、低くてもいいからパーティションを取りつけるとかの工夫があっても良いと思うのだが……。不幸中の幸いだったのは、さほど混んでいなかったため、だいたい一人おきぐらいに割り当てられたことだ。これで見知らぬ人間と顔を突き合せて寝る事態は避けられた。
  • その下のグレードだと椅子席になる。休憩にはいいかも知れないけど夜は横になれないから辛かろう。チラと見た限りでは飛行機や新幹線に比べてはるかに座り心地の悪そうな椅子だったし。椅子の方が、限られたスペースに大勢を押し込めるからなあ。
  • 和室席は、枕は支給だが毛布は希望者のみ有料(100円)で貸与。希望者のみといってもなしで寝るわけにもいかないから全員が借りたはず。床は、和室というからには畳なんだろうが、その上に薄い絨毯が敷いてある。これが固い。おまけに、寝る時のためにトレーニングウエアを持参していたものの、前述の事情で着替えるわけにいかず、わざわざトイレに行って着替えてくるのも面倒で、ジーンズのまま横になったから、なおさら痛い。ふと気がつくと、毛布を二枚借りて、一枚を敷布団の代わりにしている人がいた。なるほど賢いなあと思ったが、今更追加を借りに行くのも面倒なので、そのまま寝る。
  • 確か出発後一時間でレストランは閉店。部屋も0時前に消灯。ちょっとデッキへ出てみたが、夜の海は吸い込まれそうで怖い。もし落ちたら間違いなく死ぬだろうと思うと、長居はできない。普段は夜更かしが多く、0時前に寝ることは滅多にないから眠くはない。ロビーがあれば、本でも読んでいられるのに……とは思ったものの、とにかく横になることに。
  • 一番懸念していた件だが、船はほとんど揺れることなく進行。エンジン音もあまりしない。部屋にいると、今走っているのか止まっているのかさえわからないほど。予想通りともいえたが、これはありがたかった。そのため、他のことはまあどうでもいいやという気になれた。しかし、まさかかんべむさしはこんな雑魚寝を推奨していたわけではあるまい。個室に泊まったらいくらかかるのかな……。


写真は出航後、レインボーブリッジを抜けたところ