筒美京平亡くなる

2020年10月7日、作曲家の筒美京平誤嚥性肺炎のため逝去。80歳。

訃報に接したのは昨日だが、朝からすごいニュースになっている。Wikipediaによれば

作曲作品の総売上枚数は7,560.2万枚(オリコン)で、作曲家歴代1位である。別名義での作曲作品の売上枚数を加算すると7,600万枚を超える。オリコンが集計を開始した1968年から約50年にわたり、ほとんどの年で作曲作品がチャートインしており、ヒットチャートランクインは500曲以上、そのうちチャート1位獲得は39曲、TOP3以内が約100曲、TOP10入りした作品は200曲を超えている。日本音楽界で最も多くのヒット曲を生み出した作曲家である。

とのこと。著名であり、ヒット曲も多いが、こんなすごい人だったとは知らなかったが、確かに、これぞ日本歌謡という純・歌謡曲風のものからフォーク系、ポップス系など幅広く名曲を残したイメージがある。

個人的には筒美京平と言われて一番に思い浮かべるのは太田裕美の一連の作品だ。最も著名な作品は「木綿のハンカチーフ」であろう。この曲、歌詞は田舎娘が振られて泣いているという、割にウエットな内容なのだが、敢えてアップテンポの軽快なメロディーにして、それを太田裕美がサラリと歌ったのが何と言っても良かったと思う。歌詞が悪いというわけではない。主人公の男の子と女の子は、基本的には仲がいいのだ。嫌いになったわけではない、他に好きな人ができたわけでもない、ただ男の子が都会に出て行ったら帰れなくなってしまったのだ。それでもしばらくは遠距離恋愛を続けているけれど、ついに女の子が諦めて最後にハンカチをねだる(しかも木綿の安物を)、という切ない話なのである。

ところで筒美先生は関係ないけれど、「木綿のハンカチーフ」に描かれる「場所」はどこなのだろうと昔から疑問だった。男の子は東へ向かう列車で都会へ出ていく。ということは、彼らの田舎は西にあるわけだ。この都会を東京だとすれば、東京から西……名古屋、大阪、広島、福岡、と延々と大都市が続く。男の子にとって二度と帰りたくないほどの田舎は、どこなのか。

もちろん、大阪だって福岡だって、言ってみれば東京だって、中心から少し離れればいくらでも田舎の風景はある。女の子の控えめなところは田舎娘っぽいが、このような子が港区に住んでいたっておかしくない。男の子にとっては、繁華街の大きさがどうとかではなく、たとえば何かといえば「あなたのおむつをかえてあげた」とか「中学生までおねしょをしていたくせに」とか言い出す人に囲まれてるのが嫌で、そういう人間関係を断ち切って今の自分しか知らない人と付き合っていたい、ということなのかも知れない。

そうすると、幼馴染みっぽい女の子は、嫌いではないけれど積極的に付き合っていきたい相手ではなく、女の子は、離れたところに住んでいるからではなく、そういう男の子の心情を察してしまうから会いに行けないのかも知れない。だとすると、男の子が横浜で女の子が海老名に住んでいたとしても成り立つ物語だということになる。

いずれにしても、田舎を「青森」とか「富山」とかに設定していないところがいい。都会と田舎の対比を描いているはずなのに、全体としてはそこはかとなく都会的センスにくるまれている。この曲がはやった当時は中学生だったが、主人公の「田舎」より自分が住んでいるところの方が田舎だと思っていた。

木綿のハンカチーフ[EPレコード 7inch]

木綿のハンカチーフ[EPレコード 7inch]

  • アーティスト:太田裕美
  • 発売日: 2015/11/29
  • メディア: LP Record