10月30日、藤本義一氏が肺癌にて死去。79歳。
藤本義一の小説は何冊か読んだが特に印象に残るものはない。ただ、学生時代に読んだエッセイ(多分「サイカクがやってきた」)で、「直木賞は欲しかった。そうしたら本がもっと売れるんじゃないか、というのが正直な気持ちだった」と書いてあるのを読んで衝撃を受けたことを覚えている。この人はなんと正直な人なんだろう、と思うと同時に、これがプロやな、と思ったのだ。
同時期に、プロ野球の張本勲選手が「プロにとって誠意とは金ですよ。誠意を見せるとは、いくらお金を出すかなんです」と何かで言っているのを知り、これまたなるほど、と思ってしまった。以後しばらく、カネ・カネと口にしては周囲と軋轢を起こし、金のことを口にするのは失礼というのは奇麗ごとだ、などと考えていた。
藤本氏や張本氏の言は一定の真理で、今の自分もある程度その通りと思うが、当時の自分に金銭的価値はゼロだ。そのことをわきまえずカネ・カネと口にするのは何とも恥ずかしい行為だった。
一時期は書店に行けば藤本義一の作品はずらりと並んでいたものだったが、そういえば近年はとんと名前を見ることもなかった。訃報に接し、まだ存命であったのか、と思ったのが正直な感想であった。ご冥福を祈る。
- 作者: 藤本義一
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1982/04
- メディア: 文庫
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- 直木賞作家の藤本義一さん死去 「11PM」司会でも人気(msn産経ニュース、2012/10/31)