先日、群馬県の相老(あいおい)というところへ行ってきた。赤城の少し手前である。国定忠治の「赤城の山も今宵限り……」の、あの赤城である。地名は相生町だが駅名は相老である。相生という駅は兵庫と岐阜にある。ややこしい。
湘南新宿ラインで久喜まで出、東武線で館林まで出、そこから特急りょうもうに乗るルートで行った。
栃木県の足利市、佐野市、群馬県の桐生市、太田市、館林市などを中心とした一帯は「両毛」と称され、経済的な結びつきが強い。工業地域として、都心との行き来も多いといわれるが、りょうもうの速度は特急といいつつ平均速度は60km強。のどかなスピードである*1。
館林での乗り換えは、降りたホームの向い側なのは良かったけど、乗り換え時間はわずか3分。10分くらいあれば、駅でジュースやらお菓子やらを買い込む可能性もあるのに、商売気がない。それより、ホームで特急券を売っていると思ったが、券売機がない。駅員さんに訊くと、乗っちゃって中で買って、と言われ、とりあえず乗る。
自由席に座ろうと思ったが、全席指定のようで、自由席がない。さいわいガラガラだったから、迷惑をかけることはなかったが、どんなに空いていても、自分が座った席の指定を買った人がやってくる可能性はあるわけで、そうなったら気まずいし、不正をしているように思われるのもナンだしで、早く正規のチケットを買って落ち着きたかった。
が、いくら待っても車掌さんがくる気配がない。それで、車掌室まで言いに行くことにした。車掌質は最後尾。うっかり前の方に乗ってしまったため、テケテケ歩いていく。
「特急券を買わずに乗ってしまったのですが……」
「どこまで行くの? 赤城まで?」
「いえ、相老です」
「えっ、それじゃあもう次だよ。うーん、ここで買っている間に着いてしまいそうだなあ。降りた駅で言ってくれればいいよ」
「あの、空いている席に勝手に座ってしまったんですが、よろしいでしょうか?」
「いいも何も、もう次の駅なんだけど、何号室?」
「××号室ですが……」
「えっ、それはずいぶん前だね。荷物は?」
「席に置いてあります」
「じゃあ、急いで戻らないと、もう駅に着いちゃうよ! もう間もなく相老だよ!」
そうだっけかと思いつつ、慌てて席に戻る。実際には席に着いてから列車到着まで十分時間の余裕はあり、切符を買っている時間はあったなあ、と思ったけど。
列車からホームに降り立つ。もともと乗客は少なく、駅で降りる人は少ない。遮るものが何もないホームは、冷たい風が刺すように吹き付ける。列車が再びしずしずと動き出す。と、最後尾の車掌室の窓が開いて、先ほどの車掌さんが声をかけてきた。
「さっきは悪かったね! どうもありがとうね!」