僕はかつて野村克也の大ファンだったし、今でもそうといえばそうかも知れない。
南海ホークスの監督時代は、8年間で優勝1回に2位3回、十分合格点の成績ではある。ただし日本一になったことはなく、チーム成績という点では名監督とは必ずしも言えない。しかし、人を育てることには定評があった。
1972年に、これまでゼロ勝だった江本孟紀を東映フライヤーズから獲得するや16勝を挙げさせ(その後8年連続2桁勝利)、1973年はジャイアンツで4年間で14勝だった山内新一を獲得すると20勝投手に育てた(その後5年連続2桁勝利)。さらに76年にはタイガースを追い出された江夏豊をリリーフ投手にし、のちに「優勝請負人」とまでいわれるストッパーに変身させるなど、まさに「野村再生工場」の腕をいかんなく発揮した。この時代は、チーム成績とは別に人材育成という点でもっと評価されてよいと思う。
ヤクルトスワローズの監督時代も、のちに著書で何人もの選手の名を挙げて「自分が再生させた」と述べているが、そこで名の挙がる選手で、長く活躍した人っているかなあ? と疑問に思うと同時に、伊藤智仁、岡林洋一など、野村監督が潰したと言われても仕方のない選手も、何人もいるよなあ? そのことに言及しないのはフェアじゃないな、とは常々感じていた。
本書は、そのような点を具体的な事例を挙げて検証している。ただし、ほとんどすべての事例を、「だから野村が悪い」という結論に導こうとしている気配があるが、それはかなり強引だろう、と思える例も少なくない。まあ、本書に挙がっている例から、野村克也をどう評価するかは、読んだ人が決めればよい。とにかく、こういう例が知りたい、と思っていたことについて詳述している本を見つけたので購入した次第。
ちなみに、僕が野村克也に不満があるとしたらひとつだけである。「あんたのニューボに、野球について語らせるな。監督の座に執着するなら、自分のニューボを監督しろ」。

- 作者: 工藤健策
- 出版社/メーカー: 草思社
- 発売日: 2009/11/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 7回
- この商品を含むブログ (1件) を見る