幻の「ゲット・バック・セッション」

ホワイト・アルバムで、メンバーの間に大きな亀裂が生じた(または、亀裂が明らかになった)ことに危惧を抱いたメンバーは、原点回帰を目指し、「ゲット・バック・セッション」と呼ばれるセッションに取り組む。バンドとしてチームワークよく活動していた当時に戻ろうとしたのだ。

具体的には、これは主にポールの発案によるとされるが、

  1. 観客を前にしてコンサートを行なう
  2. 演奏を前提とするため、スタジオワークを駆使した曲作りは行なわず、シンプルな構成とする
  3. 曲作りの過程をフィルムで撮影し、映画として公開する
  4. コンサートの様子はレコードとして発売する

といったものだった。観客を前にしたコンサートは他のメンバーの反対に遭って中止になったが、代わりにスタジオ・ライブとすること、従って原則として一発録りとすること……などを取り決めた。

そして、原点回帰をイメージつけるため、ファースト・アルバム「Please Please Me」のジャケットの写真撮影を行なった同じ場所で、同じポーズで写真を撮影することとなった。

しかし、その後企画は二転三転し、その過程でメンバー間の対立は助長された。セッション自体はとにかく行なわれ、映画もレコードも制作され、それは「Let It Be」としてリリースされるが、当初の意図は雲散霧消してしまっていた。そもそもタイトルが「Get back(初心に帰ろう)」から「Let it be.(なるようになれ)」になったことがすべてを象徴しているように思われる。

この時、「ゲット・バック・セッション」が当初の意図通りに行なわれていたら……と何度考えたか知れない。そうすれば、あのような終わり方をしなくても済んだのではないか。と同時に、グループがどうしようもないところまできていたからこそ、こういう結果になってしまったのだ、とも思う。

アルバムのジャケット用に撮影された写真は、のちに1973年に発売されたベスト盤「The Beatles 1967-1970(通称「青盤」)」で日の目を見ることになるが、切ない。