好き嫌いの激しい男の本「野村監督に教わったこと」

  • 山崎武司、「野村監督に教わったこと 部下は上司で生き変わる」(講談社+α文庫)

2008年2月に刊行された「野村監督に教わったこと 僕が38歳で二冠王になれた秘密」に加筆・訂正したもの。

本の作り方として、実はこのようなやり方(2年前に書いた本を、現在に合わせて手直しして出版)はあまり好きではない。

2年の間に、イーグルスは2位に躍進してクライマックス・シリーズ出場を果たし、山崎は再び2冠王になってもおかしくない成績でベストナインに選ばれ、チームメイト・田中の成長や鉄平の首位打者獲得などがあり、野村監督の辞任騒動がある。当然、これらを加味すべきであって、2年前の内容をそのまま文庫化しても商品価値はない……という考えは、もちろんわかる。文中に登場する人も、大部分はチームや肩書が変わってしまっただろう。

しかし、本の骨格や流れ自体が2年前の視点であって、つぎはぎ的にちょちょいと昨年の話題を混ぜ込んでも、却っておかしくなってしまう。もし今、イチから本を書いたら、こういう内容にはならないでしょ? せめて、単行本オリジナルがどの部分で、今回の文庫化に際して手を入れたのはどの部分かを知りたいと思う。視点がぐにゃぐにゃ変わって酔いそうになった。

毎年変化する世界で、2年前の文章に価値はないと考えるなら、文庫化などせず、本を出すなら新たに書く。2年前の文は、それはそれで価値があると考えるなら、そのまま文庫化する。それがフェアなやり方だと思う。

時々、最後に一章を追加して、単行本刊行時から現在までの出来事を書く、というやり方の本を見る。それもひとつの見識ではあるが、結局のところ、よけいな追加をされると、単行本を買った読者に対してフェアではないと思うのだ。

それはそれとして、中身の話。

僕は、近年はいろいろと批判的に思うこともあるけれど、基本的には野村克也は好きだ。だから、彼を褒めたたえる本を読むのは悪い気持ではない。ついでにいえば田尾安志も好きだから、彼に対する賛辞を読むのも悪い気分ではない。

しかし、山田久志伊原春樹に対する批判にはびっくりした。

山崎の書いた文を読んですら、山田、伊原に非がないとは言わないが、山崎サン、アンタにも問題はあるんじゃないか? と言いたくなった。山田、伊原の言い分を聞いたらもっとそうなるのではないか。それに、山崎が個人的に心の中でどんなにこの二人を嫌い、憎もうとそれは自由だけど、何も本に書いて公開することもあるまいに。

もういい年齢だけど、頭の中は子供なんだなあ。逆にいえば、まだまだ成長の余地があるってことだ。きっとこれからまだ何年も現役姿を見せてくれるだろう。