ノムさん、もう楽天の悪口はやめましょうや

書く書くと言われていた楽天本。「イーグルスは好きだが楽天は嫌い」と公言する作者が、怨みつらみを書いたもの……というわけでもなくて、一応、自分がイーグルスをどのように引っ張り、どういうところが変わったのか、について述べたもので、その点に関してはそれなりに面白かった。不仲とも伝えられる岩隈についても、彼はまごうことなきチームのエースだから、自分も厳しいことを言った、と、彼のプライドを保つ書き方がしてあり、ほっとした。

最後の方で、自分はこれだけ人を遺した、と、自分の監督時代に育てた選手で今コーチや監督をしている人の名前を列挙していたのは、全部が全部あんたが育てたわけじゃないだろ……と突っ込みたくはなったが、まあ、お年寄りにはこのくらいの花を持たせてあげてもいい。

彼が監督を辞めることになったのは、本人はクビだと騒いでいたが、楽天側は契約の任期満了によるものであり、もともと一年契約で更新はないと伝えていた、という。この楽天側の説明を支持する人も多いのだが、本人の弁によれば、こういうことらしい。

この世界では、契約というのはあってないようなもの。契約途中でも、成績が悪ければクビになるし、契約が満了しても、成績が良ければ延長となる。5位のチームを2位にしたのに契約満了です、というのは、自分の常識にはなかった。オーナーはビジネスの世界では成功しているが、野球を知らない人だった、……と。

この論法にはいささかの批判もあるのだが、それよりも、この本には一切登場しない、沙知代夫人のことを野村がどう思っているのかが気にかかる。

パ・リーグの主砲といわれ、兼任監督まで務めた南海ホークスを辞めさせられたのは、沙知代のため(当時、事実婚状態ではあったが、お互いに既婚者でありダブル不倫であった)。野村をかわいがっていた川勝オーナーは、沙知代と別れるよう再三アドバイスしたというが、本人は、野球と女とどっちをとるかといわれたら女だ、と頑として受け入れなかったという。

ヤクルトスワローズ時代は、監督としての実績もあり、沙知代の問題は表面化しなかったが、夕刊紙やマイナー出版社から出た暴露本などでは、このままの状態が続けば野村は沙知代のことが原因でヤクルトをクビになる、としばしば書かれていた。

阪神タイガースの監督を辞めたのは、三年連続最下位に終わった成績のこともあるが、直接の理由は沙知代の脱税である。

楽天球団も沙知代夫人には手を焼き、野村を辞めさせたかった一番の理由はそれだという報道もあった。もちろん、球団がそう発表したわけではない。こうしたアングラ情報の信憑性は疑わしいともいえるが、全く何の関係もなかったわけではないだろう。

イーグルスの監督を三年務めて5位に終わった時、そこで監督生命が終わりになっても文句は言えなかった。しかし、球団に温情で一年更新してもらい、こうしてプレーオフを闘うことができ、有終の美を飾れたのだ。だからこそこうした本を出すこともできるわけである。もうこれ以上晩節を汚すようなこと(楽天球団の悪口を触れて回ること)は慎んでほしいと、永年のファンとしては心から思う。