いつのまにか公式アルバムに格上げ「マジカル・ミステリー・ツアー」

一応「サージェント・ペパーズ」の次に位置づけられる作品だけど、1987年にCDが出た時にいつの間にか公式アルバムに「格上げ」されていただけ。米国キャピトルによる寄せ集めアルバムのひとつであり、レコード盤は英国では発売されていない*1。だから、アルバムとしての出来を云々してもあまり意味がない。

昔々、レコードは、17cmのシングル盤と呼ばれるものと、30cmのLP盤と呼ばれるものがあった。今のCDでもシングルはあるから、レコードを知らない人も想像はつくと思う。シングルは45回転(毎分)で片面一曲。収録時間は通常は3〜4分くらいだ。「ヘイ・ジュード」が入ったのだから、やれば7〜8分くらいまでは可能だったのだろう。LPは33と1/3回転で、片面20〜25分くらい。SP盤と呼ばれる78回転のものは僕らの時代には既になかった。

これとは別にEP盤というのがあって、大きさはシングルと同じだが回転数が33と1/3、つまり遅い分、長く収録できた。だいたい片面2曲(両面で4曲)というのがパターンではなかったか。*2

僕がリアルタイムで知っている時代、つまり1970年代、80年代の日本の歌謡界では、EP盤はゼロではなかったが、ほとんど重点を置いていなかった。アイドル歌手で、過去のヒット曲を4曲まとめた手軽なベスト盤をいくつか見た覚えはあるが、新曲をEPで出したことはなかったと思うし、ニューミュージック系の歌手、たとえば拓郎陽水ユーミンサザンといったところは、EP盤自体、出していない。*3

60年代はそうだったのか、英国特有の事情か、ビートルズの戦略かはわからないが、ビートルズはシングル、アルバム(LP)だけではなくEP盤も重視していた。恐らくはLPを気軽に買えるほど裕福ではない人を対象にしたのではと想像するが、13枚のEP盤のほとんどはアルバムから抜き出したもの、あるいはシングル盤のA面曲を集めたものである。ところが、「ロング・トール・サリー」と「マジカル・ミステリー・ツアー」の2枚は、シングル・アルバムとの重複曲がない。

そこでキャピトルは、このEP盤と、同時期に発売されてやはりアルバム未収録だったシングル曲とを合わせて一枚のアルバムを仕立て上げた。それが本作である。EPもシングルも、時期を外すと入手が難しく、しかも集めるのは割高であるため、そうした意味でこのアルバムは歓迎されたのではないか。のちに「公式」に格上げされたのもそれが理由だろう。

かんじんの中身だが、映画のサウンド・トラックに当たる最初の6曲は、「サージェント・ペパーズ」をコンパクトにまとめたような印象を受け、しかも曲の質は「サージェント・ペパーズ」より高い。Magical Mystery TourはSgt. Pepper's Lonely Hearts Club Bandより軽快でノリがいいし、I Am The WalrusはA Day In The Lifeよりストリングスを使いこなしている。

シングルから採った後半5曲は、彼らの詞、曲、編曲、演奏すべてが最高レベルだった時代なのではないか。

マジカル・ミステリー・ツアー

マジカル・ミステリー・ツアー

*1:英国(パーロフォン)オリジナル・リリースのことを指している。アルバム自体はアメリカから逆輸入された形で販売されていた。また1976年には、改めてパーロフォンからも発売された。

*2:Wikipedia「レコード」の項では、シングル盤のことをEP盤、EP盤のことをコンパクト盤としている。が、これは少々納得がいかない。少なくともあまたのビートルズの解説で、EP盤といえば4曲入りの17cm盤を指し、シングル盤は含まない。

*3:子供の頃にたまに買ってもらった童謡などはほとんどEPだったように思う。のちに歌謡曲のレコードを自分で買うようになって、同じ大きさなのに一曲しか入っていないのに驚き、ガッカリした覚えがある。