アマチュア時代の吉田拓郎について書かれた本。拓郎だけでなく、拓郎を取り巻く人々もじっくり描き出されており、いわゆる青春小説、群像小説として読めば(吉田拓郎のファンでなくても)、十分手応えがある。
ただし、吉田拓郎のファンが、なにか新しい知識を得ようとしても、満足できないかも知れない。つまり、35年前からの拓郎ファンである僕は、少々物足りない気がしたのだ。
もちろん、アマチュア時代の軌跡はほとんど知らなかったので、そのこと自体は面白かったし、ヒロシマの戦後史をある面から捉えた貴重な記録にもなっている。
物足りないと思ったのは、ひとつには、知っている名前がほとんど出てこないこと。最後の方に伊村秋夫、伊庭啓子といった名前が出てくるものの、それ以外は知らない。僕はレコードデビューしてからの拓郎にはそれなりに詳しい。その僕が知らないということは、つまり、つながっていないのだ。
ヤマハのライト・ミュージック・コンテストで優勝した。フォーク村を結成した。そこで話が終わっている。その後、自主製作盤「古い船を今動かせるのは古い水夫じゃないだろう」をいかにして作ったのか、エレックレコードといかにして契約したのか。拓郎が「デビュー」するまでには、まだまだ話が二つ三つある。そこまで描いてほしかった。せめてマックスや中沢厚子との出会いは知りたかった。
もうひとつ、描かれていることがどこまで事実なのかわからず、ドキュメンタリーとして読んでいいのかあくまで小説なのかはっきりしないこと。いや、小説なのであるが、相当綿密な取材を行ない、かなりの部分が事実に基づいているはずで、「吉田拓郎」の名前を冠している以上は、そのあたりはやはり教えてほしいところだろう。
文庫本の解説を重松清が書いているが、これも人選を誤ったような気がする。渋谷陽一とか富澤一誠とかに書いてほしかったな。
- 作者: 田家秀樹
- 出版社/メーカー: 小学館
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