小説らしい小説「雷撃深度一九・五」

  • 池上司、「雷撃深度一九・五」(文春文庫)

「真夏のオリオン」の本当の原作だという本書をようやく入手したので読んだ。

倉本艦長も登場するが、本書の本当の主人公は永井少将であろう。この人物は映画では登場せず、倉本すり替えて描かれている。一方、映画に登場し、死の直前の友情に涙した有沢は、本書には登場しない。

「真夏のオリオン」はやはり映画のノベライズで、本書こそが小説だな、と思ったのは、ストーリーに深みがある、とでもいえばいいか。小説のいいところは、ことさら説明口調であることを感じさせずに複雑な事象をきちんと説明できることで、こちらの方が筋立ても人間関係も複雑である。その分、奥行きが与えられているように思われる。

人間魚雷の回天を使わないのも、単に人命尊重の立場からではなく、武器として大きな欠点があるからだとしている。インディアナポリスの艦長マックベイが一目置くのも、若い倉本ではなく、歴戦のつわもの・永井であれば納得がいく。

もちろん、映画が小説に劣るというわけではない。ポイントを絞ってストーリーをシンプルにした分、圧倒的な迫力で迫ってくる。これは小説では絶対に無理だ。

これを原作にしてあの映画を作ったのは、たいしたものである。小説は小説としての面白さを堪能でき、映画は映画としての面白さを味あわせてくれたからだ。

過去記事