意外なじゃじゃ馬、青田昇

プロ野球のOBの書いた本には、通常、多くを期待しない。自分の知らない(選手ならではの)エピソードがいくつかわかればそれで十分、と思っている。

この本もそういうつもりで手に取った。青田がどういう選手であったかはそれなりに知っているが、実際にテレビなどで話すのを見たことはなく、著書を読むのも初めて。

いや、こんな面白い人だとは思わなかった。このユニークな発想は、とてもこの世代の人とは思われないほど。たとえば、水原茂ジャイアンツの監督を辞めた後、川上哲治が次の監督になったが、この時、川上ではなく千葉茂を押す声もあった。そして、もしあの時川上ではなく千葉が監督になっていたとしたら……

よく、ONがいれば監督が川上でなくてもV9はできた、○○監督だったらV12ぐらいできたのでは、などという人がいるが、青田はこれを否定する。V9は川上監督でなければ不可能だった、と。だから千葉が監督になったらとてもV9は無理だったけれど、ただ、もっと面白い野球を見せてくれたんじゃないかなあ、というのだ。それが具体的にどんな野球かは本文を読んでほしい。ユニークだけど、論理的、合理的な説明だ。

もうひとつ、戦後、彗星の如く現われた大下弘が、年間20本のホームランを打って度肝を抜かれた話が出てくる。その後5回も本塁打王を獲得する青田ですら、戦前は2年間で本塁打は通算1本のみ。粗悪なボールに飛ばないバット、そして打法の違い。そんな中での大下のホームランがいかに凄かったかを得々と語る。このあたりは同時代人の、しかも同じ強打者として迫真の文章である。

ただし、「この時の20本は現在の40本以上の価値がある」とあるが、記録の神様こと宇佐美哲也氏によれば、40本どころか、70本以上の価値がある計算になるそうであることを付け加えておく。

サムライ達のプロ野球 (文春文庫)

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