夢中さ君に

「夢中さ君に」といえば、チューリップのライブのアンコール曲というイメージが強いが、初のライブ盤である「LIVE!! ACT TULIP」ではオープニング・ナンバーになっている。

演奏は、シングル盤のもの(1973年)は、それほどではなく、「LIVE!! ACT TULIP Vol-2」(1976年)でのバージョンを一応完成版としてよかろう。演奏のたびに少しずつ変えていたようで、「LIVE!! ACT TULIP Vol-3」(1978年)も1976年版と少し趣が違い、これも悪くないが、僕としては1976年版が一番だと思う。

中学生になり、友人と組んで曲を作ったりギターを弾いたりするようになると、チューリップの曲を手がけることが多かった。中でも「夢中さ君に」はよく歌った。popな曲調もとてもよいのだが、歌詞もいい。中でも「君の素敵な胸の膨らみが揺れ動くたびに僕は狂いそう……」の一節は、「そこまであからさまに言うか!?」と戸惑いつつも、中学生の男子としては、「そうだそうだ」と共感する部分が大。当時好きで好きで、寝ても覚めても頭から離れない女の子のことを思い浮かべつつ、パーカッションを叩き(途中の「タカタカタッタ」の部分を再現するために、テーブルやギターの縁を叩いた)、熱唱したものである。

のちに、財津和夫が「ヒットさせることだけを考えるなら、『夢中さ君に』のような曲を作ればいいので話は簡単なんだけど、それでいいのか? と思った」みたいなことを書いているのを読んで、すごーくがっかりしたことを覚えている。多分、「青春の影」をリリースした頃のものだろう。これまでとはがらりと路線が変わり、これではヒットしないと周囲が猛反対する中のリリースだったと言われている。

青春の影」の件はちょっと置くとして、「夢中さ君に」のような曲を作るのが簡単だというなら、もっとどんどん作ってくれよ、と思ったわけだ。「夢中さ君に」は「心の旅」のB面曲で、単発でヒットしたわけじゃない。「夢中さ君に」的なpopな曲といえば「銀の指輪」くらいのもの。これもスマッシュヒットは記録したが、チャートインしたわけではない。

アルバム曲に目を移しても、思い浮かぶのは「MELODY」(1976年)所収の「あの娘は魔法使い」くらいのものだ。「夢中さ君に」以前でも、「君のために生れかわろう」(1972年)の「新しい地球をつくれ」くらいしかないのではないか?

チューリップの曲で、その後も歌い継がれ、今でもよく知られている曲というと、「サボテンの花」などが筆頭ではないかと思うが、このようなバラードこそがチューリップの真骨頂なのだった。このタイプの曲は多い。「夢中さ君に」のような軽快な曲は、本当はあまり得意じゃなかったんだろう。