映画「トランスフォーマー」

映画「トランスフォーマー」で、数十年前に地球には高度な科学力を持つ地球外生命体が飛来したことがあったが、そのことはアメリカの政府機関のごく限られた人間が知っているのみで、世界中には秘密にされてきた。しかし、残された「機械」を研究することによって、今日のマイコンチップをはじめとする様々な科学技術がこの世界にもたらされたのだ……というくだりがある。

地球外生命体とのコンタクトが一般大衆には秘密にされているくだりはともかく、後半は余計だった。ターミネーターからのパクリなのかも知れないが、あまりにもリアリティがない。

僕らの子供の頃は、NASAの技術力に対する信仰みたいなものがあった。なにやら怪しげな製品の宣伝文句に「NASAの技術を応用」みたいなことが書いてあって、NASA=胡散臭い、みたいな逆のイメージが漂ったくらい、裏を返せばNASAに対する憧れのようなものがあったのだろう。

実際、科学技術の黎明期にNASAの果たした指導的役割は決して少なくなかったし、膨大な国家予算がついているという意味で、今日でもその存在意義は大きい。しかし、ひとつの組織だけが指導的地位であり続け、それ以外の企業や研究所は、常に後塵を拝していたということはあり得ないし、仮にそうであったとしたら、ここまでの発展はなかっただろう。

少なくともマイクロプロセッサの発展の歴史は、何十という企業の激しい競争の上に成り立ってきたものだ。その時々で技術的なアドバンテージを持っていたのは、ザイログであったりモステクノロジーであったりモトローラであったりIBM、Digital Equipment、インテルAMDなど、常に入れ替わっており、その間、様々な種類のチップが生まれ、消えていった。

アーキテクチャーも、1990年代はマイクロプロセッサの将来はRISCしかない、と世界中の誰もが考えていたのに、10年たったら誰も話題にしなくなった。スーパーコンピュータも、ベクトル型からスカラー型へ、集中式のサーバーから分散式のクラスタへ、そしてグリッドコンピューティングと、何度も方向転換をしている。

もしランクが上の科学技術に触れ、その成果を製品開発に反映させてきたら、このような道はたどっていない。だから、あのとってつけたようなセリフはいかにも嘘くさく聞こえたのだ。

それとも、今の若い人は、マイクロプロセッサというものは何十年か前に、ゴードン・ムーアがある日突然思いついて開発したものだとでも思っているのだろうか。AMDインテルの互換路線だし、それ以外にチップメーカーってないもんなあ*1。案外ムーアは地球外生命体にヒントを与えてもらったのかも知れないぞ、なんて。

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*1:もちろん、チップメーカーは今でもたくさんある。とはいえ、インテルの一人勝ちであることに変わりはない。